方向音痴な言説

地図・ナビゲーションにまつわる俗説を取り上げます

地図を読むには、空間認識能力より言語能力の方がはるかに大事

 空間認識能力とは、物の形状、位置、大きさ、距離などを立体的に把握する能力のことです。要するに単純能力であり、小鳥の脳味噌にも具わっています。
 障害物を巧みに避けながら、不規則な飛跡を描く昆虫を空中で捕獲するツバメや、屈折率の異なる水中の小魚を見事にダイビングキャッチするカワセミなどが、高度な空間認識能力を持っているのは間違いないでしょうが、鳥は地図が読めません。紙上に抽象化された地図と、現実の風景との対応関係が理解できないからです。 

 一方、言語能力は複雑能力であり、かなり大容量の脳でないと獲得不能であると思われます。
 言語を理解するには、音声もしくは記号と、現実の物体または事象との間に対応関係があることを理解する必要があります。さらに、言語は独特の文法構造を持つため、無意味な構文と意味のある構文とを弁別する構造把握能力も必要です。そして、言語は、具体的な物体または事象のみならず、抽象概念をも扱うことが可能です。当然、抽象概念を理解する能力が無ければ、言語は扱えません。 

 地図を読むには、もちろん空間認識能力  必要です。その意味では、方向音痴な言説11項目のうち

3. 地図が読めるか否かは、空間認識能力が高いか低いかで決まる。

は、完全に誤りだというわけではありません。しかし、空間認識能力よりもっと大事なことがあります。
 地図と現実の風景との間には対応関係が存在しますが、1対1対応ではなく、抽象化・概念化された図形や記号が地図には記載されています。地図を読むには、まさに言語理解と同等の能力が必要になります。
 もちろん、言語能力が高ければ自動的に地図が読めるようになるわけではなく、それ以上に外的[要因の影響を強く受けることは、前回の記事で述べました。 

 地図を見て実際の地形をイメージするには、確かに空間認識能力が必要ですが、そもそも実際の地形を見たことがなければ、イメージのしようがありません。経験は非常に重要です。読図訓練においても、現地で実際の風景と地図を対応させる訓練は必須です。読図能力向上には経験が必要だとわかっているからです。
 逆の見方をすれば、社会的・経済的理由から外出が制限される人は、経験値を上げようがなく、持って生まれた空間認識能力とは無関係に、ナビゲーション能力も地図を読む能力も低いといえます。
 地図を読む能力を論ずる際、訓練・経験を無視または極端に軽視している言説は、全く話になりません。

 これらのことから、方向音痴な言説11項目のうち

11. メンタルローテーション(心的回転)テストで好成績の人は、地図が読める。

も怪しいことがわかります。この件については、後日 別エントリを立てる予定です。