方向音痴な言説

地図・ナビゲーションにまつわる俗説を取り上げます

地図が読めない人は、地図を俯瞰的に把握している

*このエントリでは、一般〜初級を「地図が読めない人」、中級〜上級を「地図が読める人」と定義します。一般・初級・中級・上級の定義は、「地図が読める人」って、どんな人?を参照してください。 


 地名表示板に書かれた地名を地図上で探させる課題を与えれば、探索時間に差はあれど、大抵の人がちゃんと見つけ出します。誤答の場合でも、単なる うっかりミスではないかと見なせるケースがほとんどです。地図に対して強い苦手意識をもつ「一般」者も、この点、何の問題もありません。
 ところが、地名(名称のある建物なども含む)が表記されていない場所では、地図が読めない人は、現在地を特定することはできません。現に目の前に見えている風景の中に、現在地を特定できる手がかりがふんだんに存在していても、です。上級者なら8割がたが正答する課題であっても、「一般」者の正答率は完全にゼロだったりします。そう、地図が読めない人は、地名と地図を対応させることはできても、風景と地図を対応させることが苦手なんです。 実際、地名表示プレートが無く、それどころか道(踏み跡)すら無い山の中でも、正確な現在地を地図上で指摘できることに、まず「一般」者は驚きます。
 初級者であれば、風景と地図を対応させる下準備的な訓練に取りかかります。そのために、コンパスの基本的な使い方を練習し、地図をきちんと正置(風景と地図を対応させるにあたって正置は必須)できるようにしておきます。

 地図が読めない人は、地図を俯瞰的にしか把握できないようです。俯瞰的、と言えばなんだか高等そうですが、なんのことはない、単に地図を上から見下ろしているだけの見方です。ルート線の上を点(現在地)が動いているだけの単純な機械的イメージ、といったところ。実際に現地ではどのような風景が見えるはずなのか、地図を見ても全くイメージできないのです。
 地図が読める人も、もちろん地図を俯瞰的に把握はしていますが、それだけではありません。地図を見て、あらかじめどんな風景が見えるかを予測し、現在地候補を絞り込み、「仮に現在地が地図上のここだとすると、今、現に見えている周囲の風景と矛盾は生じないか」と検討します。「実際に何が見えるか」を絶えず意識しているのです。
 また、ホワイトアウト・ナビゲーションにおいても、有視界時に培った地図=風景イメージは、大いに助けになります。 


 地図が読めるようになると、例えば、以下のように細かく地図を読み込むようになります。

沢の本流を詰めて行く。まず左から大きな支沢が合流するのを見送る。そこから標高を約120メートル上げるまで、目立った支沢の流入は無い。それから、標高差20〜30メートル間隔で、本流とほぼ1対1の大きさの支沢の出合が4回連続する。最初の出合は右、2回目、3回目は左、4回目は右に進む。

 これぐらい詳細に地図を読まなければ、本当に遭難してしまう場合があり得ます。間違った沢を詰めるのは、非常に危険だからです。「大体の方角さえ合っていればよい」なんて いい加減は通用しません。 

 こうしてみると、方向音痴な言説11項目のうち、8. はもちろんのこと、5. 、7. 、10. もアウトであることがわかります。