方向音痴な言説

地図・ナビゲーションにまつわる俗説を取り上げます

単純能力の高さは、必ずしも複雑能力の高さを意味しない

 1,234×5,678=?
 薄型のポケット電卓でもできる簡単な計算ですが、暗算で5秒以内に正答できる人はそう多くはいないはず。
 人間は、こんな簡単な計算もろくにできないくせに、はるかに難しいはずの抽象思考ができます。現在の技術では、抽象思考を機械にやらせることは不可能です。
 確かに、人間は抽象思考の運用方法を誤りがちではあるし、結果的に判断を間違うことも多いのですが、「機械は抽象思考が苦手」「間違えやすい」などという次元の問題ではなく、機械には全く抽象思考ができないのです。どうしたら機械化できるのか、現在のところわかっていません。 

 立体を回転させたときどう見えるか、機械に判断させることは容易です。しかし、人間の表情の微細な変化から相手の感情を読み取ることは、難しすぎて機械化は非常に困難です。人間は、簡単なはずのメンタルローテーションが苦手なのに、それより圧倒的に高度で複雑な情報処理を要する「相手の感情読み取り」をこなせます。 

 ナビゲーション関連領域においては、方角・距離の計測は、単純な機械的計測であり、事実 機械化されています。GPSが正にそうです。一方、ランドマーク(目印)の識別と認識は、方角・距離の計測よりはるかに高度で複雑なため、機械化は難しくなります。それなのに、人間は単純なはずの方角・距離把握を苦手とし、複雑なはずのランドマーク認識を得意とします。

 単純能力が高いからといって、必ずしも複雑能力が高いとは言えませんし、逆もまた然りです。人間の能力を評価する際、念頭に置いておく必要があります。