方向音痴な言説

地図・ナビゲーションにまつわる俗説を取り上げます

おススメ良記事 − 『スムーズに目的地に着く方法』

 トンデモ本ばかり取り上げていては殺伐とするので、ここらで良記事を紹介することにしましょう。 

・株式会社 日立ソリューションズ
 『できるビジネスパーソンは迷わない! スムーズに目的地に着く方法』
http://www.hitachi-solutions.co.jp/column/tashinami/houkou/ 

 成城大学の新垣紀子氏に取材して作成した記事だそうです。

自分のことを方向音痴だと思っている人は多いようですが、実際のところ、方向音痴とはどんな人のことを指すのでしょう。自分が方向音痴かどうかを知るための明確な基準はあるのでしょうか。
「方向感覚や街の情報を記憶する能力をテストする実験や、測定法はいろいろと提案されていますが、まだ確立した基準のようなものはありません。一般的には、情報があっても道に迷ってしまう人や、自分が迷いやすいという自覚がある人が方向音痴と呼ばれています」(新垣先生)

〔記事1ページ目〕

 まずは方向音痴とは何ぞや、というところから導入するあたり、きちんとした記事であることを伺わせます。 

街を歩き、地図や記憶を頼りに目的地までたどり着くという行為には、方向感覚だけでなく、さまざまな能力や知識が必要になります。
〔記事2ページ目〕

 目的地までうまくたどり着くには、単一因子だけでなく複数因子が関与していることをちゃんと押さえています。 

これらは、心理学の研究で使われる、空間認知能力を測定するテストの一部。もちろん、このテストの結果が正しかったからと言って、「方向音痴でない」と断言できるわけではありませんが、自分の空間イメージ力を知る一つの手がかりにはなります。
〔記事2ページ目〕

 上記引用文に続いて、メンタルローテーション・テストと展開図問題が提示されています。一応、

もちろん、このテストの結果が正しかったからと言って、「方向音痴でない」と断言できるわけではありませんが、

と但し書きは付いているものの、テスト成績と方向音痴との 強 い 関連性を示唆する書き方ではあります。メンタルローテーションや展開図テストの成績と、実際のナビゲーションに、果たしてそれほど強い相関関係があるのか、甚だ疑問です。むしろ、一人で知らない場所に出かける機会が多いかどうか調べた方が、より強い関連性を見出せるのではないでしょうか。例えば、「地図が読めるようになる」ことを謳い文句にした怪しげな教材(メンタルローテーション・テストや図形問題が満載されています)をひたすら解いているがほとんど外出しない人と、その手の問題は苦手だが、独力で知らない場所によく出かける人とを考えてみれば、問題の所在がはっきりするのではないかと。
 ともあれ、「方向音痴」とは、表出する行動特性や傾向(道に迷いやすいなど)に対して付けられた名称ですから、その人が方向音痴かどうかは、あくまでも行動特性から判断すべきことでしょう。方向音痴かどうかをメンタルローテーションや展開図テストで判断すべきではありません。
 なんだか記事に対してケチつけみたいなことを書いてしまいましたが、良記事だからこそ微瑕が目立ってしまうというだけのことです。 

また、一般的に、男性より女性の方が道に迷いやすいイメージがありますが、先生によると、今のところ、はっきりとした男女差があるとは言えないとのこと。「空間認知能力に関しては、男性の方が優れているという実験結果も出ていますが、その能力が生まれつきのものかどうかは定かではありません。男の子は、幼いうちから子供だけで遠くまで遊びに行ったり、探検ごっこや秘密基地ごっこをしたりと、空間的なイメージ力が必要になるような環境で育つため、後天的に空間認知能力が身につくとも考えられるからです」(同)
〔記事2ページ目〕

 地図読み・ナビゲーションに関する根拠薄弱な性差論が幅をきかせる中、当記事の慎重な姿勢には好感が持てます。一般に、社会的な理由から、男性よりも女性の方が外出を制限されやすいことは考慮しておく必要があります。


 記事4ページ目では、道に迷わないためのコツとして

  • 行く前の予習でイメージ力を補おう
  • 最初が肝心! スタート地点で、自分の位置をしっかり確認
  • 目印(ランドマーク)や道の形状など、街にあふれる情報を活用する
  • カーナビや携帯など、便利なツールを有効的に使う

の4項目が挙げられています。実に真っ当なアドバイスです。

 全体として、構成もしっかりしていて、一般向け読み物として非常によくまとまっています。こういう記事がもっと書かれることを望みます。