方向音痴な言説

地図・ナビゲーションにまつわる俗説を取り上げます

全く地図を読めない人が、突然地図を読めるようになることはあるか?

 それまでカナヅチだった人が初めて泳げるようになる瞬間、自転車に乗れなかった人が初めて乗れるようになる瞬間――そこには、不連続的な飛躍があります。しかも、一度習得した技能は保持されます。自分はどうして、今までこんな簡単なことが出来なかったのだろう、と不思議に思えるほどです。泳ぎや自転車乗りを幼い頃に習得した人であれば、出来るようになった瞬間のことは忘れているかも知れませんが、ある程度以上の年齢になって習得した人であれば、喜びはひとしおでしょう。 

 しかし一般には、物事を習得する際、「劇的な瞬間」は存在しません。練習度合に応じて、緩やかに上達するのが普通でしょう。地図読みもそうです。
 では、例外は無いのでしょうか? それまで言語を知らなかったヘレン・ケラーが、ある時突然「w-a-t-e-r」の意味を知り、言語を習得したように、突如として地図の意味を理解する人はいないのでしょうか? 

 実は、地図読みのヘレン・ケラーは存在します。
 2009年、月刊山岳誌『山と渓谷』4月号〜12月号にて、全く地図を読めない編集部員 菊野令子氏相手に、山岳読図界の二大巨頭の一人である村越真氏が読図指導を行なう企画が連載されました。連載中、一向に上達する気配のなかった菊野氏が、最後にいきなり地図が読めるようになったとのこと。詳しい経緯は『山と渓谷』のバックナンバーで確認できますが、指導者の村越氏が、ご自身のブログで概要を書いています。 

・ブログ 『世界選手権ついでにチャレンジ』 より
 2009年9月16日付記事 『開眼』
http://shin0430.way-nifty.com/woc2006/2009/09/post-0ee3.html 

 つまり、読図の訓練を施したにもかかわらず、全く上達することなく初期状態のまま足踏みしていた人が、ある瞬間、いきなり大幅にステップアップしたってことです。さすがに、訓練も無しに急に地図が読めるようになることはあり得ないでしょう。途中で匙を投げずに指導を続けた村越氏の功績大です。
 こんなケースは滅多に無いでしょうが、ごく稀に、劇的な上達ぶりを見せる人もいるということです。