※ このエントリで使用する用語の定義は以下の通りです。
地図 : 道路地図のこと
地図を読む : 道路地図を使って目的地に行くこと
若者 : 16歳〜29歳の人
カーナビが普及したので、地図を読めない若者が増えた
よく聞く言説です。
この言説の致命的な点は、何年前と比較しているのか、さっぱりわからないことです。10年前か、20年前か、はたまた50年前と比較しているのか。これでは、ただの思いつきだと見做されても仕方がありません。
地図を読む能力についてのきちんとした調査が存在するのか、調べても見当たりませんでした。地図を読む能力を調査することは非常に難しいので、おそらくそんな調査自体 存在しないものと思われます。
ちゃんと調査されていない以上、本当に地図を読めない若者が増えているのかどうか、推測に頼るしかありませんが、推測の精度を上げることは可能です。
カーナビの普及状況については、下記リンク先を参照しました。
・カーナビの出荷台数累計
(社)電子情報技術産業協会(JEITA)データより国土交通省作成(2011.2.1) (PDF形式)
http://www.mlit.go.jp/road/ITS/j-html/vics_pdf/navi_vics.pdf
一般ユーザー向けカーナビ自体は1980年代から存在していましたが、広まりだしたのは1990年代後半になってから、「普及した」と呼べるほど一般化したのは2000年代になってからだと見てよいでしょう。
では、キリのいい数字で区切るとして、2000年、1990年、1980年当時と比較して、現在は地図を読めない若者が増えているのでしょうか。
1990年頃であれば、カーナビは普及していませんでしたが、既に長距離ドライブは普通に行なわれていました。この頃と比較してみてはどうでしょう。
とは言え、「若者」には、必然的に、経験の浅い人が多数含まれます。1990年と比較するにせよ、当時の同年代と比較しなければ意味がありません。
1990年に若者だった人は、2012年現在、30代後半から50代前半の年齢になっています。現在ではそこそこ地図を読める30代〜50代の人も、果たして若い頃から地図を読めたのか、疑わしいものです。
結局、カーナビが普及したせいで地図を読めない若者が増えたかどうか、はっきりしたことは言えない、というのが妥当なところでしょう。
仮に、10年前より現在の方が地図を読む能力が低下していたとしても、カーナビ以外の影響因子も考えられます。
因みに、1970年、1960年と比較すれば、地図の読める若者はほぼ間違いなく増えているでしょう。だからといって、
カーナビが普及したせいで、地図を読める若者が増えた
と結論付けることができないのは言うまでもありません。1970年、1960年頃と比較して地図を読める人が増えたのは、カーナビ以外の要因が大きいと考えられるからです。
それにしても、女性が地図を読めない場合、それは脳の構造、人類の進化過程、空間認識能力の欠如、原意時代に狩猟をしなかったことが原因であり、カーナビの普及とは関係無いらしい。
若い男性が地図を読めなかったら、それはカーナビが普及したせいであり、脳や進化や空間認識能力や狩猟とは関係無いらしい。
地図を読む能力が非常に高い女性がいたら、それは個人的な学習機会や興味関心の問題であり、脳や進化や空間認識能力や狩猟やカーナビとは関係無いらしい。
実に分かりやすい都合の良さではあります。