方向音痴な言説

地図・ナビゲーションにまつわる俗説を取り上げます

『所さんの目がテン! 方向音痴特集』(2) − 目印は大事

※このエントリを書いている2月28日時点で、当該番組がまだ放送されていない地域があります。以下ネタバレを含む記述なので、番組を未見の人はご注意ください。 


 番組公式ホームページが更新されていました。該当放送分をリンクしておきます。 

所さんの目がテン! 公式ホームページより
 方向オンチ簡単克服法
http://www.ntv.co.jp/megaten/library/date/12/02/0218.html 


関連過去記事
『所さんの目がテン! 方向音痴特集』(1) − 内容要約 

 以下、番組内容からの抜粋は緑字で記載します。 

 この番組の内容は、明らかに2009年放送の『NHKスペシャル 女と男』の焼き直し(というか劣化版)です。『〜女と男』を知らない人は、以下の記事をどうぞ。 
『NHKスペシャル 女と男』(1) − 概要
『NHKスペシャル 女と男』(2) − 内容要約
『NHKスペシャル 女と男』(3) − 方角・距離・目印
『NHKスペシャル 女と男』(4) − ナビゲーションと古人類学と 

 『所さんの目がテン! 方向音痴特集』に登場する地理学の専門家である首都大学東京都市環境学部の若林芳樹教授については、所属大学のホームページ上に紹介があります。 

首都大学東京 教員紹介 若林芳樹
http://www.tmu.ac.jp/stafflist/data/wa/892.html 

 業績を見る限り、おかしな人ではなさそうですが、番組側に都合のいい発言だけを切り取られたのでしょうか。

 拙ブログにおいて、再三にわたって
・ 人間の方角や距離の感覚は不正確
・ ツールを用いないナビゲーションにおいて目印は重要

と述べてきましたが、総まとめを兼ねて、ここで再度繰り返しておきましょう。 

感覚では正確な方角はわからない。だからこそコンパスが必要。
コンパスを使ってみよう! 

感覚では正確な距離はわからない。そのために各種の距離測定器がある。
距離を測るには? 

方角と距離の情報に基づいたナビゲーションでは計器が頼り。人間の感覚はあてにならない。
推測航法について 

極端に視界が悪い山中でのナビゲーション。コンパスを使いこなし、着実な目印となる特徴的な地形を拾いながら進みましょう。方角と距離の感覚を基に進めば遭難街道まっしぐら。
ホワイトアウト・ナビゲーションって、どうやるの? 

方角・距離の計測よりも目印の認識の方がはるかに高度で複雑な認知を必要とするらしい。どちらが容易に機械化できるかを考えれば明らか。
単純能力の高さは、必ずしも複雑能力の高さを意味しない 

自分はどこにいても方角がわかると思い込んでいるそこのあなた。ちゃんと検証はしましたか?
「ドボン」に はまる人たち 

目的地の方向を45度以上も勘違いしているくせに、迷うことなく目的地に辿り着く謎の二人組。
どこまで正確に目的地の方向がわかるか 

 人間の方角や距離の感覚が如何に不正確であるかは、例えば以下のテストを実施してみれば判明します。

・抜き打ちで北の方角を指差してもらう。実際の北方向より、プラスマイナス10度以内(合計20度以内)の誤差であれば正解とする。もちろん、京都・大阪市街のように、道路が東西南北に直交した碁盤目状で、すぐに真北がわかってしまう場所では実施しないこと。

・離れた場所にある建物までの距離を当ててもらう。実際の距離より10パーセント以下の誤差であれば正解とする。

 仮にこのテストでぎりぎり正解しても、10度もずれた方向へ、10パーセントも外れた距離を行けば、まともに目的地に辿り着けないのは明らかです。そして、これだけのズレを補正して目的地に辿り着くには、確実な目印を利用する以外にありません。
 方角や距離の感覚は、大雑把に行き先を定めたり、大幅な道迷いに気付いたり、大まかに現在地を絞り込んだりするのに有効です。つまり、見当違いの場所へ行ってしまわないための大まかな感覚であり、正確に目的地に行き着くには、やはり目印が必要です。性別など関係ありません。 

 番組制作者も、実はこの点をちゃんとわかっているのではないかと思われます。男性は方角や距離感を重視し、あまり目印を気にしていない根拠とされた実験1(詳細住宅地図を使って目的地に行く実験)、実験3(簡略地図を使って目的地に行く実験)において、番組ではルートをどう説明していたでしょうか。
 実は、方角(東西南北)による説明は一切無し、距離による説明は1回のみ。2箇所目の曲がり角は、1箇所目の曲がり角の100メートル先だという説明があるだけです。あとはひたすら目印によるルート説明(T字路コンビニのある角、など)です。これは一体どういうことでしょうか。
 もちろん、方角と距離による説明では視聴者(男性を含む)にはわかりづらく、目印による説明でないと理解しにくい、と番組制作者が考えているから、でしょう。それ以前に、番組制作者自身が、方角と距離だけのルート説明(例えば、「東へ曲がり60メートル進め」とか)ではさっぱりわからず、ちゃんと目印で説明(例えば、「眠れる少年像のところで左に曲がれ」とか)してもらわないと目的地には辿り着けないのではないかと。 

 次回は、もっと詳細に番組中の実験を検討してみます。


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『所さんの目がテン! 方向音痴特集』(3) − 番組内の実験について
『所さんの目がテン! 方向音痴特集』(4) − メンタルローテーションの過大評価