方向音痴な言説

地図・ナビゲーションにまつわる俗説を取り上げます

『所さんの目がテン! 方向音痴特集』(4) − メンタルローテーションの過大評価

関連過去記事
『所さんの目がテン! 方向音痴特集』(1) − 内容要約
『所さんの目がテン! 方向音痴特集』(2) − 目印は大事 
『所さんの目がテン! 方向音痴特集』(3) − 番組内の実験について

 番組内容の要約は、第1回記事を参照してください。以下、番組内容からの抜粋は緑字で記載します。 


 番組内でかなり大きく取り上げられていたのが、「頭の中で地図を回転させる能力」です。
 頭の中で図形や立体などを回転させることを「メンタルローテーション(心的回転)」といいます。メンタルローテーションについてわかりやすくまとまったウェブページを過去エントリでも紹介しましたが、ここで再度リンクしておきます。 

金沢学院国際文化学科のウェブページより
 頭の中で回転させる
http://kg.kanazawa-gu.ac.jp/kokusaibunka/?p=2252 

 メンタルローテーション・テストでは、被験者が回答までに要した所要時間及び正答数が数値化できるため、比較調査が可能になり研究しやすいこともあって、多くの論文が書かれています。メンタルローテーション・テストに関しては、女性よりも男性の方が若干成績が良い傾向があるのは確かなようです。 

 一見してわかるように、「メンタルローテーション能力」と「地図を読む能力」は直結しません。メンタルローテーション能力は、ヒトの視覚認知に関わりがあるのは間違いないでしょうし、地図を読む能力との 微 弱 な 関連性ぐらいならあるかもしれません(微弱な関連性を完全否定するのは非常に困難または不可能である場合が多い)。しかし、「メンタルローテーション能力」と「地図を読む能力」との間に 強 い 関連性などありゃしません。
 どうしてそんなことが断言できるかって? 現場での実際の地図読みでは、「頭の中で地図を回転させる能力」など全く重視されておらず、「地図を回転させて実際の向きに合わせるテクニック」こそが重視されているからです。 

 拙ブログにおいて、地図は回していいんだよ、と何度も繰り返してきました。地図を回すヤツはバカだと思っている人は、以下の記事をどうぞ。 

地図を正置(整置)してみよう!
地図をクルクル回す人は、なぜバカにされるのか? 

 地図を回転させて実際の向きに合わせることを正置(整置)といい、地図読みの基本技術として教えられています。別の角度から見れば、人間のメンタルローテーション能力は低い、という暗黙の大前提があるからこそ、正置が重要視されていると言えます。個人差や性差があったとしても、そんなドングリの背比べみたいなどうでもいい差異を、地図読み能力における決定打だと勘違いされては困ります。
 地図読みの基礎段階においては、メンタルローテーションなんぞよりもっと重要なことが幾らでもあります。周囲の風景を見て、何が地図と対応可能であり何が対応不可であるか判断すること、風景と対応可能な情報を地図の中から見つけ出すこと、どの方向に進めばルート維持できるかを判断すること、などなど。
 地図を読む能力が非常に高い人(オリエンテーリング選手、山岳読図をやっている人など)は、ちゃんと地図を正置しながら読んでいます。是非とも、
オリエンテーリング選手や山岳読図をしている人は、地図を頭の中で回転させる能力が低いと言われています」
というナレーション付きの番組を放送して欲しいものですね。 

 参考までに、初心者対象の読図講習で、正置について教えている動画をリンクしておきます。 

・地図の読み方・コンパスの使い方(座学)2
http://www.youtube.com/watch?v=Hp5GfUbTj8c 

 上記リンク先の動画では、受講者は初心者なので、まだうまく正置が出来ないらしく、なかなか初々しい。リンク先動画で、受講者は女性だらけであることにお気付きでしょうか。もしかしたら女性を対象にした講習だったのかもしれませんが、実は読図はやたらと女性に人気があるのも確かで、読図講習会を開催したら受講者の3分の2以上は女性だった、という話はざらに聞きます。
 「地図が読めるようになる」教材や講習って、どんなの?の末尾にリンクしておいたブログ記事『地図読みセミナ 上級編 にゆく』も参考になります。こちらは上級者対象の講習だけあって猛者揃いですが、やはりほとんど女性だらけです。 

 おっと、番組から話がそれてしまいました。
 「メンタルローテーション能力」と「地図を読む能力」との間に強い関連性は無いのはほぼ確実、微弱な関連性なら もしかしたらあるかもね、という程度なのに、番組中での過大な扱いは注目に値します。
 一方、「目印を認識する能力」は「ナビゲーション能力」に直結する能力であり、ほぼ確実に両者には強い関連性があると思われます。それなのに、番組中でのこの軽い扱いは何でしょうか。あたかも、
「女性は目印を使って経路を覚えるので方向音痴。ただし、地図製作者が女性向けの地図をわざわざ作ってやれば、女性も迷わなくなるんじゃない?」
と言わんばかりの番組内容ですが。
 目印を重視した地図が少ないというのは大間違いです。目印を重視しない地図など、迫らないショッカーと同じです。 

 先行番組である『NHKスペシャル 女と男』では、経験・訓練という重要な要素が完全に無視されていましたが、『所さんの目がテン! 方向音痴特集』でもやはり完全無視です。 

 それにしても、「地図を読む能力」ときたら、すぐにヘンテコな性差論が展開される現状は何とかならんものでしょうか。番組を作るにせよ、男女がどうこう言うのではなく、
「地図が苦手な人でも迷わず辿り着けるマル秘地図!」
というキャッチコピーで実験3の簡略地図を紹介するのであれば、生活お役立ちの良番組に仕上がったでしょうに。

 ともかく、この手の地図・ナビゲーションにまつわる俗説は、大手メディア上で定期的に再生産され続けるので、批判も継続的にやっていくしかなさそうです。
 『所さんの目がテン! 方向音痴特集』関連記事は、これにて終わりにします。