方向音痴な言説

地図・ナビゲーションにまつわる俗説を取り上げます

奈良県・薊岳付近での道迷い遭難

 既にかなり報道されていますが、2012年8月13日、奈良県明神平に登った中学生10名、引率教諭2名、計12名のパーティが道迷い遭難し、翌14日、薊岳付近で発見され、無事全員が下山しました。
 ニュース記事をリンクしておきます。 

朝日新聞関西
 奈良・明神平、12人無事に下山 倒木多く、道に迷う
http://www.asahi.com/kansai/news/OSK201208150029.html  

 上記リンク先より、引用します。ただし、個人名は伏せます。 

 同日夕、会見した引率のM教諭(59)によると、合宿最終日の13日午前に下山を始め、昼食までは計画通りだった。ところが前年までの台風のためか、倒木が多くて道が分かりづらく、右折すべき分かれ道を直進して道に迷った。夕方、水が尽きかけた時、川べりにたどり着いた。その先の道は険しく、引き返す体力もないと判断し、その場で夜を明かした。

 上記の朝日新聞記事より、発見場所の拡大画像もリンクしておきます。
http://www.asahi.com/kansai/gallery_e/view_photo_feat.html?kansainews-pg/OSK201208150043.jpg 

 ニュース記事の地図は粗すぎてよく分かりません。該当場所の国土地理院地形図を以下にリンクします。

国土地理院 地図閲覧サービス(ウォッちず)
http://watchizu.gsi.go.jp/watchizu.html?longitude=136.05754828591&latitude=34.361360692883 


 山岳遭難に関するきちんとした検証記事を書く能力のあるメディアは、『山と渓谷』、『岳人』などの山岳誌あたりに限られ、新聞・テレビなどは今ひとつです。したがって、現時点でこの道迷い遭難に関してあまり立ち入ったことは言えません。各報道を見ても、矛盾した記述もあり、まだ情報錯綜段階らしく、きちんと情報整理されるまでに時間がかかりそうです。
 報道では、遭難パーティが登った明神平は初級者向けの山であることが強調されているようですが、これは天気が良かった場合の話で、悪天候下では難易度は一気に跳ね上がります。好天時には迷う方が難しそうなはっきりした登山道であっても、豪雨や濃霧で視界が悪いと迷ってしまうことはよくあります。13日の遭難当時、当該山域は激しい雨が降っていたようです。 

 国土地理院の地形図を見ると、薊岳(1406m)から大鏡池(1182.9m)方面に下る登山道(破線で表記されています)を進んだ場合、まず薊岳からは緩やかなアップダウンのある狭い尾根歩きで、標高1300mあたりがちょっとしたピークになっています。このピークから西北西に伸びる尾根上に登山道がついていますが、もう1本、南方向に大きな尾根が派生しており、遭難パーティはこの尾根を下っていったものと思われます(※注記 : 続報により、推測した道迷い地点が誤っていることが判明した場合、書き直します)。
 地形図では、正規登山道のある尾根は、1300mピークから標高を20mほど下げるまで尾根の出っ張りがはっきりせず、ピークからの出だし部分が曖昧な尾根であることが分かります。登山道のついていない南方向への尾根の方がよっぽど尾根らしく見え、うっかり誘い込まれてしまうのも納得がいきます。要するに、いかにも迷いやすそうな地形であり、こういった場所で迷うのは典型的な道迷いパターンです。同様の理由から、大鏡池付近も要注意ポイントです。
 地図を見れば迷いやすそうなことは事前に察しがつくから、狭い尾根歩きが終わり広めのピークに出た時点で警戒し、地図とコンパスで進路の確認を取れば、間違うことはなかったでしょう。正規登山道のある尾根と、南に派生する尾根とでは、90度以上も方向が違うのですから。
 ただし、豪雨の際は、地図とコンパスを出すこと自体が鬱陶しくなります。GPSを持っていても、雨に打たれて一発でパーになってしまうことを恐れて取り出しにくくなります。悪天候の中、早く下山してしまいたいと思う焦りが、余裕の無さを生むかもしれません。

 現時点で、憶測を重ねて物を言うのは賢明ではないでしょう。とは言え、道迷い遭難における代表的なケーススタディではありそうなので、きちんとした検証記事が上がるのを待ちたいところです。

 末尾になりましたが、全員無事下山したことをお喜び申し上げます。