方向音痴な言説

地図・ナビゲーションにまつわる俗説を取り上げます

ブログ移転のお知らせ

 2011年より、はてなダイアリーにおいて当ブログ『方向音痴な言説』を運営してまいりましたが、2019年春に、はてなダイアリーサービスは終了予定となりました。詳細は下記リンク先に書いてあります。 

  つきましては、本日2018年10月19日をもちまして、はてなダイアリー内に置いていた過去記事すべてを、はてなブログへと引越しいたしました。旧はてなダイアリー記事にアクセスいただいても、新はてなブログ記事へとリダイレクトします。

全く地図を読めない人のための、独学地図読み上達講座

 地図読み初心者が上達したければ、指導実績のある上級者に直接教えてもらうのが最も効率的です。指導実績のある上級者であれば、指導対象者の習熟度に応じた適切な課題を選び、上手に教えてくれるものです。しかし、身近にそんな人はなかなか見つからないのが実情でしょう。
 このエントリでは、道路地図、市街地図、グーグルマップなどを見てもちんぷんかんぷんだけれども、人並みに地図を読めるようになりたいと願う人を対象に、一人でできる地図読みの練習方法を解説していきます。 
 

ステップ1 最初は自宅周辺を歩いて練習

 全く泳げない人が水泳の練習をする時、何が何でも泳がなければならない場所(=足の届かない水深の場所)で練習したりしませんよね。ちゃんと足が届いて、泳ぐ必然性のない場所で練習するものでしょう。地図読みも同じです。
 全く地図を読めないのならば、何が何でも地図を読まなければ到達できない場所(=全く行ったことのない知らない土地)で練習するのではなく、最初は自宅周辺・職場周辺など、いつも通い慣れていて、地図など読む必要もなく迷いようのない場所で練習を始めましょう。 

 まずは自宅周辺の地図を用意しましょう。家一軒一軒の世帯主の苗字まで記載されている詳細住宅地図がベストです。自治体によっては、そのような地図を各戸に配布しているところもあります。市町村役場や地元不動産屋に問い合わせれば、詳細地図を無料または格安で入手できる場合もあります。
 ゼンリンの住宅地図のプリントサービスを利用すれば、コンビニのマルチコピー機にて、縮尺1,500分の1住宅地図を入手できます(2016年8月現在1枚300円)。 

ゼンリン住宅地図プリントサービス
http://www.zenrin.co.jp/product/service/j-print.html 

 詳細住宅地図を入手したら、地図上で自宅を見つけてください。自宅住所の番地をもとに地図上の範囲を絞り込み、一戸建てであれば自分の苗字、集合住宅であればアパート・マンション名を探して特定しましょう。見つけたら、色ペン・マーカーなどでチェックを入れるとよいでしょう。あ、当然ですが、地図製作後に建設・引越しした家であれば、地図には新しい情報が反映されていませんので注意してください。 

 では早速、詳細住宅地図と色ペンを持って、自宅周辺の道を歩いてみましょう。最寄り駅、行きつけのコンビニ、近所の病院など、よく行く場所と自宅を往復してみます。あらかじめ地図上の目的地にもペンでチェックを入れると分かりやすいです。
 家を出たら、地図を回して、地図の向きを実際の風景に合わせましょう。カーナビやスマホの地図が進行方向に合わせて回るのと同じ要領です。この作業を「正置(または整置)」といい、地図読みの基本になります。隣家との位置関係、道路の形状などの情報をもとに、地図を正置してみましょう。時間はいくらかかっても構いませんから、落ち着いてやってください。 

 地図が正置できたら、目的地に向かって歩き出します。最初のうちは、家一軒一軒の表札と地図を照合しながら歩きましょう。地図を見慣れてきたら、要所要所で地図と現地を照合するだけでいいです。自分の通ってきた道筋を、地図に色ペンでライン引きしてみましょう。地図と睨めっこしながら歩いているのを人に見られると恥ずかしいものですが、本気で地図を読めるようになりたければ気にしてはいけません。

 曲がり角で曲がったら、地図が進行方向に合うように正置しなおしてください。本来なら、最初に自宅の前で地図を正置した時点で、地図の向きと実際の向きは合っていますから、道を曲がっても地図の向きは変えずに自分が回り込むようにすれば、正置状態は保てるはずです。しかし、いきなりそんな器用な芸当は無理でしょうから、曲がるたびに地図の向きを合わせなおし、地図上の進行方向がいつも前になるようにしましょう。

 なお、地図を正置していたら、
「地図を回すな。地図が読めない方向音痴のやることだ」
と、誰かから要らん横槍を入れられることもあるでしょうから、事前に下記リンク先を読んで理論武装しておくといいかも。 

地図をクルクル回す人は、なぜバカにされるのか? 

 曲がり角や目立つ店舗・建物などの要所で地図を確認し、道筋のラインを地図に記入しながら目的地に辿り着けましたか? では、来た道を引き返して自宅に戻りましょう。もちろん、地図の確認と正置は忘れずに。地図慣れしたぶん、往路より復路の方が楽に地図を読めるようになったと感じるのではないでしょうか。 

ステップ1番外編 埠頭で正置の練習

 地図の正置はなかなか難しいものです。地図を素早く正確に正置できる人は、地図読み能力が高い人です。
 初心者が正置の練習をするなら、なるべく視界が開けて遠くまで見通せる場所がおすすめです。近所に埠頭があるなら、そこで練習しましょう。
 1万分の1〜5万分の1ぐらいの市街地図または道路地図を用意します。 

 埠頭に行ったら、まず埠頭の端の方に移動しましょう(端の方が地図上で現在地を特定しやすいため)。現在地を確認したら、地図上に色ペンでチェック印を入れます。
 次に周囲を見回し、遠方に見える目立った特徴物(火力発電所の煙突、高層ビル、沖合いの灯台など何でもいい)を見つけます。目標とする特徴物の位置を地図上で特定し、チェックを入れます。
 地図上で、現在地と目標物とを結ぶ矢印の直線を引いてみてください。地図上の矢印を、現に今 目の前に見えている目標物に向けます。地図上に記入した矢印をまっすぐ伸ばした先に目標物が見えるはずです。現在地と目標物の特定が正確なら、これで地図の正置は完了です。あとは右前方に見える特徴物と左前方に見える特徴物(高速道路・沖合いの防波堤など)の位置関係をもとに、地図の向きを微調整してください。
 最初のうちは、慌てずゆっくり落ち着いて、地図を正置しましょう。慣れてきたら、素早くできるように練習してください。 

ステップ2 電車に乗って練習

 1万分の1〜5万分の1ぐらいの市街地図・道路地図を用意して、各駅停車の電車に乗りましょう。当たり前ですが、ラッシュアワーは避け、昼間の空いた時間帯を選びます。先頭車両の運転室の後ろ(前方の風景がよく見える場所)に陣取るのがベストですが、車窓から外の景色がよく見えるのであれば、どこでもいいでしょう。

 立ち止まって考えることのできる徒歩での地図読みと違い、電車内での地図読みは、素早い判断が必要とされます。事前に下調べをしておくとよいでしょう。市販の本タイプの市街地図を使用する場合、複数ページを行き来することになるでしょうから、付箋を付けておくと混乱しにくいです。
 鉄道の場合、道路と違って右折・左折がなく、交差点もありません。現在地は○○駅から××駅の間に絞り込めます。その点は楽です。
 一般に、JRは私鉄に比べて、駅と駅の間の距離が長くなります。 

 電車内で地図と景色を照合して、今くぐり抜けた高架は国道○号線、この踏切は地図上の県道×号線、という具合に特定していきましょう。遠くに見える山は何山、海側に見える防波堤は地図上のこれ、といった情報にも着目しましょう。
 もちろん、地図は進行方向が上を向くように正置してください。 

おまけ1 地図の縮尺


 地図の縮尺の大小がよく分からない、という人は多いものです。縮尺1万分の1と10万分の1では、どっちが大でどっちが小なんだ、と。そんな人のために、分かりやすい覚え方を紹介します。一回で覚えられるので、一回しか言いません。
 
 縮尺の大きい方が大縮尺、
 縮尺の小さい方が小縮尺です。 

 2分の1カットのケーキと4分の1カットのケーキ、どちらが大でどちらが小か分かるなら、縮尺1万分の1と10万分の1、どちらが大でどちらが小か、分かりますね。 

ステップ3 バスに乗って練習

 1万分の1以上の大縮尺市街地図または詳細住宅地図を用意します。事前にバス路線を下調べして、停留所をつなぐラインを地図に記入しておきましょう。 

 実際にバスに乗り込んだら、前方がよく見える前の席に座り、地図と風景を照合しましょう。目立つ建物、公園、バスが曲がる交差点などは、よい確認ポイントになります。通りの名前や交差点名、国道・県道番号が表示してあれば、地図で確認しましょう。
 バスが曲がるたびに、地図を正置することを忘れずに。 

 バスでの地図読みに慣れたら、もう地図読みは人並みレベルかそれ以上。もう「地図が読めない人」なんかじゃありません。堂々と自動車での助手席ナビに臨んでください。 

おまけ2 左右盲について

 世の中には、右と左の区別がとっさにできない人が一定数存在し、そういう人は「左右盲」と呼ばれます。
 左右盲の人の多くは、落ち着いてしばらく考えれば、ちゃんと左右の区別ができます。
「えっと、箸を持つ方の手がこっちだから、右はこっちか」
みたいな感じで、いったん頭の中で考えてから判断をくだすのです。いきなり「そこ右折」と言われたら、パニックになってしまいます。 

 助手席ナビをする際は、左右盲の人がいることを念頭に置いた上で、右折指示を出す時は、
「コンビニのある角を右折」
みたいに言いながら、左手の人差指で指矢印を作り、大きな身振りで左から右へ動かします。逆に左折指示を出す時は、「左折」と言いながら、右手を右から左へと動かすと伝わりやすいです。 

おまけ3 女は地図が読めない?

 女性の地図読み初心者が練習していたら、ドヤ顔で
「男は原始時代に狩りをしていたから空間認識能力が発達して地図が読めるが、女は地図が読めなくて〜」
などと要らんことを言う外野が必ずいるものですが、ただのトンデモ科学ですから無視していいです。
 反論用に理論武装しておきたい人は、以下の記事を参考にどうぞ。

『話を聞かない男、地図が読めない女』 (4) − 空間能力と地図
『NHKスペシャル 女と男』(3) − 方角・距離・目印
『所さんの目がテン! 方向音痴特集』(4) − メンタルローテーションの過大評価

山岳誌『山と渓谷』、「地図を回す人は地図が読めない」という俗説を否定

 当ブログでは、 

 地図を進行方向に合わせて回す人は、方向音痴で地図が読めない 

という俗説を否定する記事を何度か書いてきました。例えば、以下の記事がそうです。 

地図を正置(整置)してみよう!
地図をクルクル回す人は、なぜバカにされるのか?
『所さんの目がテン! 方向音痴特集』(4) − メンタルローテーションの過大評価
心的回転(メンタルローテーション)の日常例 

 この俗説は、地図読み能力の非常に高い人(オリエンテーリング選手、アドベンチャーレーサー、山岳読図をやっている人)は地図を回して読んでいる、という事実を提示することにより完全否定できます。しかし如何せん、俗説を真に受けた人がすぐに俗説を拡散してしまうので、火消しも追いつかないのが現状です。今月(2016年8月)に入ってからも、ツイッター上で、「地図を進行方向に合わせて回す人は、方向音痴で地図が読めない」という趣旨のツイートが大量拡散されていました。
 こんな状況ではありますが、山岳誌『山と渓谷』の今月号(2016年9月号)において、俗説を否定する記事が掲載されました。今月号の目玉は読図特集ですが、整置(地図を回して地図の向きを現地の風景と一致させること。「正置」とも表記する)の重要性や整置のやり方などが、かなりのページ数を割いて解説されています。因みに、日本の山岳遭難は道迷いが突出して多いこともあり、山岳誌は定期的に読図特集を組んでいます。
 『山と渓谷』2016年9月号の詳細はこちら。↓ 

・Reader Store 山と溪谷 (通巻977号) 
http://ebookstore.sony.jp/item/LT000063057000588066/ 

 上記リンク先に記載されている目次より、該当箇所を抜粋しておきます。 

第1章 基本のセンスを磨く
整置編 なぜ整置が必要なのか 方向音痴を「整置」で克服する 街で地図読みに慣れ親しもう! 地図読みの第一歩、整置をマスターする

 

 整置を地図読みの基本に位置付けた上で、読図スキルの向上を目指して指南する内容になっています。基本がなっていないと、スキル向上も望めませんからね。
 また、読図問題のミニドリルが付録として付いていますが、そこにも整置に関する問題が2問ほど収録。さらに、写真と地図を対応させる問題が1問収録されていますが、当然ながら、地図は写真に対して整置されています。 


 地図を進行方向に合わせて回す人は、方向音痴で地図が読めない

という俗説を、面白半分に拡散する人がこれだけ大勢存在する現状下で、俗説を否定する記事が出たところで焼け石に水の感は否めません。しかし、きちんとした読図の特集記事が組まれ、地図読みに興味を持つ人が増えることにより、徐々に俗説が駆逐されていくことを期待したいものです。