方向音痴な言説

地図・ナビゲーションにまつわる俗説を取り上げます

アナログ時計で方角がわかるというけれど

 山で道に迷った時に方角を知る方法として、よく次のようなことが紹介されています。 

 アナログ腕時計の短針を太陽に向け、短針と文字盤の12時の位置を二等分した角度が南。 

 「アナログ時計 太陽 方角」のキーワードで検索をかければ、いくらでも見つかります。この方法を紹介しているウェブページは沢山あるのに、特定のページを取り上げて批判的なことを書くのは気がひけるので、敢えてリンクはしません。 

 この方法を書いている人は、単に聞きかじった豆知識を受け売りしているだけで、実際にこの方法でナビゲーションしたことなど一度も無いのではないか、と私は見積もっています。せいぜい、短針を太陽に向けたつもりになり、方角がわかったつもりになって、それで満足しているのではないかと。
 まず、短針を太陽に向けるなどと、出来もしないことを簡単に出来るかのように書いてある時点で怪しさ爆発です。日中の太陽はとうてい直視できたものではなく、短針を正確に太陽に向けられません。ちょうどいい具合に雲がかかって太陽が直視できる場合でも、仰角があると、やはり正確に向けにくいものです。それより、細い棒を鉛直向きに立てるか垂らすかして、その影に短針を沿わせる方が現実的です。しかも、そこまでやっても、精度は今ひとつ。手順を守りさえすれば、目標物がぴたりと体の真正面にくるコンパスとは比べ物になりません。地域(経度)や季節にもよりますが、コンパスと照合してみれば、時計から割り出した方角と実際の方角とはずれていることが確認できます。
 いずれにせよ、山で道に迷った時に方角 だ け わかったところで、ほとんど意味はありません。「コンパスは地図とセットで使って初めて意味を持つ」という言葉は、全く同じことを別の側面から言い表したものです。コンパスも持っていない人が山で道に迷った時は、確実な地点まで引き返すことが先決です。
 因みに、「アナログ時計と太陽」みたいな精度の悪い方法は、読図講習でも教えません。現場では使い物にならない要らんトリビアなど、覚えても仕方がないことです。