方向音痴な言説

地図・ナビゲーションにまつわる俗説を取り上げます

『NHKスペシャル 女と男』(1) − 概要

2009年1月、NHK総合において、『NHKスペシャル 女と男〜最新科学が読み解く性〜』が、3回シリーズにて放映されました。 ・NHK ONLINE 女と男〜最新科学が読み解く性〜 http://www.nhk.or.jp/special/onair/woman_man.html この番組は大変好評だったらしく、…

男は方角と距離で指示すると迷いにくいが、目印と左右で指示すると迷いやすい?

男性に道順を指示するとき、方角と距離で指示すると迷わず目的地に着きやすいが、目印と左右で指示すると迷いやすくなる。これは科学的に実証済みで、原始時代に狩猟をしていた男性は、方角と距離を把握する能力が発達したのだ――まことしやかにこんなことを…

距離を測るには?

ナビゲーションは測量ではないので、精度の高い距離測定をする機会は少ないかもしれませんが、距離測定についてざっと見ておきましょう。 ロードカウンター YAHOO! ショッピング ロードカウンター http://shopping.search.yahoo.co.jp/search?uIv=on&ei=UTF-…

おススメ良記事 − 『スムーズに目的地に着く方法』

トンデモ本ばかり取り上げていては殺伐とするので、ここらで良記事を紹介することにしましょう。 ・株式会社 日立ソリューションズ 『できるビジネスパーソンは迷わない! スムーズに目的地に着く方法』 http://www.hitachi-solutions.co.jp/column/tashinam…

『話を聞かない男、地図が読めない女』 (5) − ナビゲーションと地図

関連過去記事 『話を聞かない男、地図が読めない女』 (1) − 影響力の絶大さ 『話を聞かない男、地図が読めない女』 (2) − 男脳・女脳テスト 『話を聞かない男、地図が読めない女』 (3) − 男は狩りをしない 『話を聞かない男、地図が読めない女』 (4)…

『話を聞かない男、地図が読めない女』 (4) − 空間能力と地図

関連過去記事 『話を聞かない男、地図が読めない女』 (1) − 影響力の絶大さ 『話を聞かない男、地図が読めない女』 (2) − 男脳・女脳テスト 『話を聞かない男、地図が読めない女』 (3) − 男は狩りをしない 書籍『話を聞かない男、地図が読めない女』文…

『話を聞かない男、地図が読めない女』 (3) − 男は狩りをしない

関連過去記事 『話を聞かない男、地図が読めない女』 (1) − 影響力の絶大さ 『話を聞かない男、地図が読めない女』 (2) − 男脳・女脳テスト 男と女が異なる進化をしてきたのは、その必要があったからだ。男は狩りをして、女は木の実や果実を採った。男は…

『話を聞かない男、地図が読めない女』 (2) − 男脳・女脳テスト

関連過去記事 『話を聞かない男、地図が読めない女』 (1) − 影響力の絶大さ 書籍『話を聞かない男、地図が読めない女』に収録されている「男脳・女脳テスト」(文庫版p86〜p91)は、非常に人気があるらしく、ウェブ上でも数多くの診断サイトが見つかります…

『話を聞かない男、地図が読めない女』 (1) − 影響力の絶大さ

地図読み・ナビゲーションにまつわるヨタを撒き散らした最大の功績者(?)といえば、文句無しに,書籍『話を聞かない男、地図が読めない女』でしょう。影響力の大きさだけは、群を抜いています。 『話を聞かない男、地図が読めない女―男脳・女脳が「謎」を…

方向音痴な人は、本当に動くものを目印にしているか

例えば、算数の苦手な小学生がいるとします。算数の授業が終わったあと、その子に、どんなことを覚えていたか質問したところ、 「校庭でよそのクラスの子がサッカーをしていた」 「隣の席の子がノートにマンガを描いていた」 などと答えたとします。だからと…

「方向音痴な人」って、どんな人?

一般に、方向音痴だと評される人とは、以下のような特性を持つ人のことでしょう。 何度も通ったことのある道を覚えていない。 来た道を戻れない。 事前に道順説明を受けても、初めて行く場所にうまく辿り着けない。 よく行く場所であっても、いつもと違うル…

登山道を外すとき

前回の記事の続きです。 私の知人が実際に登山道を外した(または外しかけた)3件の事例を、以下に紹介します。3事例とも、はっきりした踏み跡がついている登山道上で起こったものです。 Aさんの場合 − 直進方向についた踏み跡に気を取られる Aさんが先行し…

一本道であっても、道迷い遭難は起こる

山においては、毎年多くの道迷い遭難が発生しています。警察庁から年度毎の遭難概況が発表されています。・警視庁生活安全局地域課 平成22年度中における山岳遭難の概況 (PDF形式) http://www.npa.go.jp/safetylife/chiiki28/h22_sangakusounan.pdf 平成…

研究結果は如何にして不正確に広められるか

前回の記事では、ドリーン・キムラの研究を紹介しましたが、これが大手メディアや口コミによってどう歪曲されて広まっていくか、格好の事例が存在します。フジテレビ系列で1999年2月4日に放映された『江角マキコの恋愛の科学』です。 ・『江角マキコの恋愛の…

ドリーン・キムラ − 何を調べているのかさっぱりわからない「実験」

道順を覚えるとき、男は方角と距離を正確に把握し、女はランドマーク(目印)で把握する。 かなり多くの人が信じている俗説です。この俗説の出所となったのは、カナダのウェスタンオンタリオ大学のドリーン・キムラが1993年に実施した実験であると推測されま…

「自称・地図が読める人」は当てにならない

ごく当たり前のことですが、自己申告というものは、あまり当てにならないものです。能力調査をする際には、被験者本人の自己評価ではなく、他者からの測定可能なテストによる客観評価を採用したいものです。 ところが、自己評価のみで地図読み能力の調査を済…

「地図を読む能力」を調査することの難しさ

ある属性を持つ集団が、どの程度地図を読む能力を有しているか、調べるにはどうしたらいいでしょうか。ただし、調査対象人数は100人以上、「地図を読む能力」をきちんと数値化して、比較評価を可能にすること。 まず、「地図を読む能力」をどう定義するか、…

単純能力の高さは、必ずしも複雑能力の高さを意味しない

1,234×5,678=? 薄型のポケット電卓でもできる簡単な計算ですが、暗算で5秒以内に正答できる人はそう多くはいないはず。 人間は、こんな簡単な計算もろくにできないくせに、はるかに難しいはずの抽象思考ができます。現在の技術では、抽象思考を機械にやらせ…

「地図が読めるようにならない」教材 − 悪用されるメンタルローテーション・テスト

前回の記事では、ちゃんと地図が読めるようになる教材や講習を紹介しましたが、一方で、「地図が読めるようになる」ことを謳い文句にしながら、どう見ても地図が読めるようにはならない教材も存在します。こうした教材は、主として営利目的の能力開発教室が…

「地図が読めるようになる」教材や講習って、どんなの?

「地図が読めるようになる」教材であれば、こちらで紹介した本があります。きちんと読み込めば、地図を読む能力が大幅に向上すること請け合いです。 また、各地で様々な読図講習会が開催されています。きっちりカリキュラムを組んだ本格的なものもあれば、趣…

メンタルローテーション(心的回転)テストの成績が悪いと、地図が読めない?

地図を読むにあたって、コンパスの使いこなし術の習得は必須です。見方を変えれば、人間の方角・方向に関する感覚は不正確だという暗黙の大前提があるわけです。感覚だけで方角・方向が正確にわかるのなら、コンパスなど要りません。 このように、人間の能力…

メンタルローテーション(心的回転)って、何?

物体を回転させるとどのように見えるかを、頭の中だけで判断する能力のことを、メンタルローテーション(心的回転)といいます。メンタルローテーションに関しては、下記リンク先がわかりやすくまとまっています。・金沢学院国際文化学科のウェブページより …

山岳読図界の二大巨頭

ニセ物の宝石が氾濫する世の中で宝石鑑定眼を養うためには、まず本物の宝石を見ておく必要があります。本物と比べてニセ物がいかにチャチで安っぽいか、よくわかります。 日本の山岳読図界の二大巨頭といえば、村越真(むらこし・しん)氏と平塚晶人(ひらつ…

男脳と女脳(2) − 怪しい本の見分け方

前回の記事の続きです。 前回取り上げたバロン=コーエンの『共感する女脳、システム化する男脳』は、まだしも学術本風に書かれていましたが、「男脳・女脳」について書かれた本の大部分は、学術の体裁など為していない怪しげな自己啓発本です。この手の本は…

男脳と女脳(1) − そもそも無意味な分類ではないか

拙ブログで取り扱う話題は、極力、地図読み・ナビゲーション関連に絞るつもりですが、方向音痴な言説を論ずる際に、「男脳・女脳(男性脳・女性脳)説」は避けて通れません。当然ながら、私は神経科学分野の専門知識は持ち合わせていないので、(専門知識の…

インチキ脳科学について

拙ブログは、巷に出回っている地図読み・ナビゲーションに関するニセ科学的俗説のおかしさを指摘するために立ち上げました。これまでの記事は、本丸に攻め込む前に、まず外堀をちまちま埋め立ててきたといったところです。これからは、内堀も埋めてしまいま…

地図には、ほとんど距離と方角の情報しか記載されていない?

方向音痴な言説11項目のうち、 10. 地図には、ほとんど距離と方角の情報しか記載されていない。は、あまりにも初歩的かつ致命的な誤りです。さすがにこれは、瞬時に見破れないようでは困ります。こんな間違いを平気で言うような人は、地図の読み方が全くわか…

地図が読めない人は、地図を俯瞰的に把握している

*このエントリでは、一般〜初級を「地図が読めない人」、中級〜上級を「地図が読める人」と定義します。一般・初級・中級・上級の定義は、「地図が読める人」って、どんな人?を参照してください。 地名表示板に書かれた地名を地図上で探させる課題を与えれ…

地図を読むには、空間認識能力より言語能力の方がはるかに大事

空間認識能力とは、物の形状、位置、大きさ、距離などを立体的に把握する能力のことです。要するに単純能力であり、小鳥の脳味噌にも具わっています。 障害物を巧みに避けながら、不規則な飛跡を描く昆虫を空中で捕獲するツバメや、屈折率の異なる水中の小魚…

原始時代、男は全く地図が読めなかった

*注 : このエントリでは、「地図」とは道路地図・市街地図を指します。つまり、「地図」と聞いて普通の人がイメージする地図のことです。 私の母方の祖父(30年以上前に他界)は、明治生まれで、当時としては異例の高い教育を受け、その地方では名士的存在…